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生物多様性リレーコラム

2016.5.11

澤井健二 (水辺に学ぶネットワーク代表/摂南大学名誉教授)
1/200巨椋池復元ビオトープ ~50m四方に再生された往時の自然環境~

はじめに

 巨椋池は,京都市伏見区南部,宇治市,久御山町にまたがって存在した,周囲約16km,面積約8km2,最大水深約1.1mに及ぶ巨大な池でしたが,昭和8年から16年にかけて行われた干拓によってその姿を消しました。干拓以前に有していた治水機能,および環境保全機能は大きく,その歴史を想い起こして部分的にでもその機能を復元することは,将来の治水ならびに環境を考える上で有効です。京都大学防災研究所宇治川オープンラボラトリーでは,巨椋池に関する文献収集を行い,構内にある約50m四方の緑地に,その周辺をも含めた流域模型ビオトープを2014年度より製作し,防災ならびに環境学習支援に供しています。

 

巨椋池の歴史

 巨椋池の歴史は大きく3つの時代に分けられます。第1期は豊臣秀吉による伏見城築城以前,第2期は伏見城築城から昭和初期の干拓開始まで,第3期は干拓から現在に至るまでです。第1期の巨椋池には,宇治川が多くの派川に分れて網目状になって巨椋池に流入し,沿岸にはそれらの派川に囲まれた多くの島がありました。宇治川オープンラボラトリーの位置は,この第1期の巨椋池の北端に当たります。第2期には伏見城築城に伴って宇治川の両岸に堤防が築かれて派川が切り離されるとともに,新田開発や街道整備が行われて,巨椋池は中央部の大池と北東部の二ノ丸池,南西部の中内池,大内池などに集約されていきました。第3期には干拓によって流れは承水溝,排水路に集約され,常時水を湛える池は姿を消しましたが,干拓地の大部分は水田として,夏期には水を湛えています。

 干拓前の巨椋池は多様な生態系を育み,漁業も盛んで,また宇治川,木津川,桂川の遊水地としての機能を有していました。ところが,宇治川からの派川を切り離すことによって次第に水質が悪化し,環境汚染が進行してマラリアが流行するなどしたため干拓して新田開発を行うことになったのです。それによって環境の汚染は回避され,農業生産は格段に増加しましたが,内水被害を防ぐには多くの排水路とポンプ場の建設を必要とし,今なお排水路の拡充が進められています。

 干拓後の巨椋池にとって最大のできごとは,昭和28年の水害でしょう。この水害では宇治川の向島で堤防が切れ,干拓前の巨椋池を上回る広範囲が約1ケ月にわたって浸水する大災害となりました。この災害を機に上流に天ケ瀬ダムを建設することとなり,昭和39年に完成しています。その後,宇治川の破堤氾濫は生じていませんが,巨椋池干拓地が浸水する内水氾濫は何度か生じています。

 巨椋池の東端部にあたる向島地区には昭和40年代にニュータウンが建設され,人口は急速に増加しました。また,干拓地の中央部を東西に京滋バイパス,南北に第二京阪道路が通り交通の要衝となっています。

京都大学防災研究所流域災害研究センター本館屋上から
宇治川越しに巨椋池干拓地を望む

 

模型の範囲と縮尺

 今回復元させた模型の範囲は,巨椋池を中心として,宇治川,木津川,桂川の下流部と三川合流部を含むもので,現地スケールで10km四方の範囲を水平縮尺1/200に縮小して作成しています。池や河川の位置は干拓直前の状態を復元しています。位置関係を把握しやすいように,道路や鉄道の位置は現在のものを表現しています。鉛直方向の縮尺も周囲の山の高さについては1/200に縮小しています。巨椋池の池底の地形については鉛直方向に縮小せず,最大水深約1mを保持して,往時の水生植物相の復元を可能にしています。また,河床の地形については鉛直方向に1/20に縮小しています。

 

ビオトープの構造

 このビオトープの場所には,以前,多くの水理実験施設が設置されていました。その撤去跡に実験で使用した土砂を客土したところに,池や河道の部分を掘削し,当初は突き固めのみを行いましたが,漏水が激しかったため,その後,表層10cmにベントナイトを混合して撹拌した上に10cmの覆土を行っています。池部の水際には,高さ30cm,幅120cmの畔板(あぜいた)を50枚つないで,防水を施しました。それでも若干の漏水があるため,池の部分には毎秒100ccの井戸水を補給して常時満水状態に保っています。河道部については,模型の最上流部にあたる天ヶ瀬ダム部分から常時少量の給水を行い,流れの観察や計測を行う時には,水槽のバルブを開けて洪水を模した毎秒約10Lの大量の水を供給できるようにしています。それらの水の供給源は地下水(井戸)で,現在のところ商用電源を用いて汲み上げていますが,間もなくソーラーパネルを用いた自然エネルギーに切り替える予定です。

 周辺の道路,鉄道に相当する部分には,幅20cmのゴムシートを敷き,その上に,直径2~5cm程度の砂利をしいて,草が生えないようにしていますが,歩行や草刈りの妨げになり,改良を検討しています。

 また,鉄道の駅や高速道路のインターチェンジ,河川の橋梁,歴史的建造物などに相当する位置には標柱を建て,さらに,池には舟を浮かべ,往時の漁業や蓮見舟などの文化をイメージできるようにしています。

 ビオトープの池部分には,干拓前の巨椋池の代表的な植生として,ハス,オグラコウホネ,ムジナモなどの水生植物を植栽し,近くの水路で採取したメダカなどを放流しています。宇治市の宇治川右岸河畔部にはフジバカマ,向島の宇治川左岸部にはヨシを植栽し,また,周囲の丘陵部にはそれぞれの場所に特徴的なものとして,宇治丘陵にはチャ,男山・天王山にはタケ,枚方市北山にはテンダイウヤクなどを植栽しています。

 ビオトープには,カエルはもちろんのこと,トンボやチョウなどの昆虫類,サギ,ムクドリなどの鳥類も飛来し,憩いの空間になっていますが,植栽した植物のほかに,アオミドロやシバの繁殖なども見られ,除草等の手入れは不可欠です。

屋上から俯瞰したビオトープ全景
(中央が大池,右上方の脚立の位置が宇治川オープンラボラトリー)
大池部分の水際でメダカを放流する市民
二の丸池の部分で開花したハス(オグラノカガヤキ)

 

環境学習支援ネットワークへの展望

 京都大学では毎年10月下旬に宇治地区のオープンキャンパスを開催しています。宇治川オープンラボラトリーでもそれに合わせて巨椋池流域模型ビオトープを含めた施設の一般公開を行っています。 

 また,構内の第2実験棟南端の資料室には,このビオトープに関連する説明資料や,巨椋池に関する文献や農具・漁具などを展示しています。さらに,構内の流域災害研究センター本館の屋上からは,この流域模型が俯瞰できるとともに,宇治川,巨椋池干拓地,周囲の山々などを一望することができ,実物,模型,資料を同時に見比べながら,治水と環境について想いを巡らすことができます。

 今後は,オープンキャンパスだけでなく,見学者のニーズに合わせた施設公開なども検討していきたいと考えています。また,巨椋池まるごと格納庫,旧山田家住宅,宇治市歴史資料館,久御山町図書館,伏見図書館など,巨椋池に関する学習のできる施設が周辺にいくつも存在しています。今後,宇治川オープンラボラトリーがそれらのネットワークの一翼を担うことができれば幸いです。

 なお,このプロジェクトは,最初の段階から関心のある市民の方々との協働で進められており,今後,より多くの方々が関わってくださることを期待しています。ビオトープの見学やプロジェクトへの参画をご希望の方は,下記宛お問い合わせください。

 

京都大学防災研究所宇治川オープンラボラトリー
アクセスマップ

<問合せ先>

〒612-8235 京都市伏見区横大路下三栖東ノ口 

京都大学防災研究所宇治川オープンラボラトリー内

巨椋池流域模型ビオトーププロジェクト

水辺に学ぶネットワーク代表 澤井健二 

E-mail:kenjisawai@mta.biglobe.ne.jp

 

 

 

第2実験棟内に展示された農具と漁具
室内における巨椋池に関する展示資料

(筆者プロフィール)

 1948年,京都市北区小山生まれ。現在は伏見区日野に在住。1976年,京都大学大学院工学研究科土木工学専攻博士課程修了。1970年から1993年まで,京都大学防災研究所において土砂水理学の研究に従事した後,1993年から2014年まで,摂南大学において水工学ならびに水辺環境創出の研究教育に従事しながら,京都・日野川水辺の会,淀川愛好会,ねや川水辺クラブ,寝屋川流域ネットワーク,桂川流域ネットワーク,大和川市民ネットワーク,近畿子どもの水辺ネットワークなどを立ち上げ,流域連携を推進。2014年に摂南大学を定年退職後は,これまでの活動のまとめとして,水辺に学ぶネットワーク(さわい水辺ネット)を立ち上げ,京都大学防災研究所宇治川オープンラボラトリーを活動拠点に,巨椋池流域模型ビオトーププロジェクトに熱中。(摂南大学名誉教授,京都大学工学博士)

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