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京都市

生物多様性リレーコラム

2016.8.19

畠佐代子 (全国カヤネズミ・ネットワーク代表,京都市環境審議会生物多様性保全検討部会委員)
桂川の自然環境とカヤネズミ

はじめに

 京都市の西部を北から南へゆったりと流れる桂川は,鴨川と並んで,京都を代表する河川です。河川敷には運動公園や畑地もありますが,自然草地が多く,一部には河畔林が発達し,嵐山の渡月橋付近から三川合流点まで,変化に富んだ植生が続きます。147万人が暮らす大都市に位置しながら,貴重な自然環境が残されています。

桂川

 川の生きものというと,水の中に目が向きがちですが,川沿いの草地にも,いろんな生きものが生息しています。桂川の河川敷を散策すると,多くの種類の草本植物が見られます。これらの植物が構成する多様な草地環境は,生きものにさまざまなすみ場所を提供します。その中でもひときわ背が高いオギやヨシ,いわゆる「茅(カヤ)」と総称される,イネ科高茎草本がまとまって生える草地(カヤ原)にすむ代表的な生きものが,カヤネズミです。

カヤ原にすむ日本で一番小さなネズミ

 カヤネズミは,日本に生息するネズミの中で一番小さく,体の大きさは人間の親指大(頭からおしりまでが約6cm,尾は約7cm),体重は500円硬貨1枚分(約7~8g)しかありません。背中の毛はオレンジ色,おなかの毛は真っ白です。体が小さく軽いので,バッタのように草の葉の上に乗れます。耳は小さく,顔の横に沿うようについていて,草むらの中を移動するのにじゃまになりません。後ろ足は,私たちの手のように指が長く,草の茎や葉をつかむことができます。尾は長くしなやかで,草の茎や葉に巻きつけて体を支えたり,ぐるんと大きく振って,葉の上でバランスを取ったりします。雑食性で,イヌビエなどの小さな草のタネや,バッタなどの昆虫を食べます。私は桂川で,するすると草の穂を登り,尾と後ろ足の三点支持で体を支えて,食事をするカヤネズミに何度か出会ったことがあります。

カヤネズミの幼獣
セイバンモロコシを食べるカヤネズミ

 カヤネズミは夜行性で,昼間はめったに出会えません。でも,草を編んだ特徴的な球形の巣(球状巣)を見つけることで,生息を確認することができます。巣は野球のボールくらいの大きさで,茎から葉を切り離さずに編まれます。そのため,周りの植物にカムフラージュされて,ぱっとみただけでは,どこに巣があるのかわかりません。巣作りには,さまざまなイネ科やカヤツリグサ科の植物が利用されますが,おもにはオギやススキのような背の高いイネ科植物が使われます。桂川では,ほとんどの巣はオギに作られます。地上1~1.5m前後の高さに作られることが多く,2m近い「高層建築」の巣もあります。カヤネズミは,ヘビやイタチ,モズ,カラス,コミミズク,トラフズクなど,さまざまな生きものに狙われるため,目立たず,地上からも容易に届かない,安全な高い場所に巣を作ると考えられます。

カヤネズミと巣
オギ

桂川の草地にすむ生きものたち

 桂川の草地には,カヤネズミの他にもさまざまな生きものが生息しています。例えば,オギやヨシの草むらでは,オオヨシキリやウグイスも子育てをします。初夏のカヤ原には,彼らの鳴き声が満ちあふれて,たいへんにぎやかです。タンポポが生えるような,日当たりがよく背の低い草むらは,明るい草原環境を好む,モンキチョウ,ツバメシジミ,ショウリョウバッタなどの昆虫類や,ヒバリやセッカ,ハタネズミなどにとって,良いすみかです。ジネズミの仲間は,水際の河畔林や湿った下草に好んで生息します。アマガエルは,水際の草むらでよく出会います。たいていオギやヨシの葉の上で,眠たそうにしています。日当たりのよい場所の石の上や,草の葉の上などでひなたぼっこをしているのは,カナヘビです。時には,甲羅の長さが30cm近い,大きなクサガメにひょっこり出会うこともあります。森林から草地まで多様な環境を利用するアカネズミとモグラは,水際近くから堤防まで広く分布します。カヤネズミの生息場所は,アカネズミとモグラの生息場所と重なりますが,カヤネズミは草の上に巣を作る生活形態を持つので,うまくすみわけています。さらに,これらの動物を狙うイタチや,アオダイショウやシマヘビなどのヘビ類,ノスリ,コミミズク,チュウヒ,オオタカなどの猛禽類にとって,河川敷の草地は絶好の狩り場です。

オオヨシキリの幼鳥
アマガエル

草地の減少とカヤネズミの危機

 昭和30年代くらいまで,カヤネズミはごく普通に見られるネズミでした。しかし現在では,カヤネズミの生息が確認されている都府県の8割にあたる,1都2府28県のレッドデータブック(絶滅のおそれのある生きもののリストをまとめた本)に掲載されるまでに,数が減っています。京都府では「準絶滅危惧種」に選定されています。その原因は,生息地となるカヤ原の減少です。

 かつてカヤ原から採取される茅は,屋根材や,牛や馬の飼い葉(かいば),田畑の肥料(緑肥)などに利用されていました。京都の多くの神社で,6月30日に行われる「夏越祓(なごしのはらえ)」での「茅の輪くぐり」の材料として茅が用いられるなど,人々の生活や文化と深く関わっていました。しかし,生活が変化して茅の利用価値が失われ,カヤ原は無価値な場所とみなされるようになりました。そして,宅地や公園などに作り替えられたり,河川改修で埋め立てられたり,外来植物やクズなどが繁茂して,カヤネズミが営巣しづらい植生に変わってきています。

松尾大社の茅の輪

 桂川も例外ではありません。私は1999年から桂川でカヤネズミの生態を研究していますが,最初に調査を行った牛ヶ瀬地区では,2002年頃からオギ原がクズに覆われる場所がだんだんと増え,2000年から2005年の5年間で,カヤネズミの年間の営巣数が339個から119個へと,およそ3分の1に減ってしまいました。

クズに覆われたオギ原

保護への取り組み

 私が代表をつとめる市民団体「全国カヤネズミ・ネットワーク」(カヤネット)では,カヤネズミの保護活動のひとつとして,桂川での生態調査と生息地の保全活動に取り組んでいます。2014年には,桂川の河川改修工事で失われた,生息地のオギ原を再生するために,国土交通省淀川河川事務所や地元の自然保護団体「乙訓の自然を守る会」と協働してオギの移植を行い,生息面積の増加に成功しました。

再生したオギ原

 今年1月,京都市に生息する生きものや生育環境保全の取組などをとりまとめた「京都生きもの100選」が公表され,桂川と,桂川におけるカヤネズミの保護活動も選ばれました。「京都生きもの100選」は,2014年に京都市が策定した「京都市生物多様性プラン」に基づき,市が主体的に進める事業のひとつとして,2,600人を超える市民の投票により,取りまとめられたものです。さらに,カヤネットの桂川での活動は,公益社団法人日本ユネスコ協会連盟が実施する「プロジェクト未来遺産2015」にも登録されました。

 カヤネズミのすむ桂川の貴重な自然環境を,次のまた次の世代の子どもたちに伝えるために,私たちみんなで守っていきたいものですね。

 

(カヤネズミについて,さらに詳しく知りたいかた向けの参考図書)

畠佐代子著 『カヤネズミの本-カヤネズミ博士のフィールドワーク報告-』 (世界思想社,2014)

畠佐代子著 『すぐそこに、カヤネズミ-身近にくらす野生動物を守る方法』 (くもん出版,2015)

 

(筆者プロフィール)

畠 佐代子(はた さよこ)
京都市生まれ。博士(環境科学)。全国カヤネズミ・ネットワーク代表,滋賀県立大学環境科学部非常勤講師。京都市環境審議会生物多様性保全検討部会委員。
琵琶湖・淀川水系をメインフィールドにカヤネズミの生態を研究する傍ら,市民参加型調査による全国的な保護活動にも取り組む。
著書に『すぐそこに、カヤネズミ-身近にくらす野生動物を守る方法』(くもん出版/第63回産経児童出版文化賞 産経新聞社賞受賞),『カヤネズミの本-カヤネズミ博士のフィールドワーク報告』(世界思想社)など。

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