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京都市には森林や河川,農耕地や市街地,社寺,庭園などさまざまな環境があります。それぞれの環境には多種多様な植物をはじめ,ほ乳類,魚類,鳥類,両生類,は虫類,昆虫類,菌類などさまざまな生きものがいます。
「京都府レッドデータブック」(2002 年)によると,府内には約10,000 種の動植物(動物(ほ乳類,鳥類・昆虫類など) 約7,000 種, 植物約3,000 種)が生息・生育しており,昆虫類や菌類のようにまだ種数そのものがわかっていない分類群もあるので,実際にはさらに多くの生きものが生息・生育していると考えられています。
京都市域においては,生息・生育する動物のうち約170 種が,また,植物のうち約180 種が絶滅のおそれがある絶滅危惧種に分類されています。
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京都市を,丹波高地から山城盆地にかけての地域特性を踏まえ,生物の生息・生育環境や社会環境の特徴とそれらがもたらす生態系サービスをもとに,「奥山・里山」,「農耕地」,「市街地」,「河川・池沼」の4 類型に区分しました。
生態系サービスとは,生物多様性の恵みを分かりやすく説明するために用いられるもので,「供給サービス」,「調整サービス」,「文化サービス」,「基盤サービス」の4つに分類されています。
「供給サービス」とは,自然等が食料や繊維,木材等,私たちの暮らしに必要なものを供給してくれる恵みのことです。
「調整サービス」とは森林が気候を調節したり,雨水を保水し自然災害の発生を防止したり,土が水質浄化機能を果たすことで安全で栄養豊かな水を供給するなどの恵みのことです。
「文化サービス」とは,さまざまな生きものや地域の風土が織りなす豊かな自然によってもたらされる心身の安らぎや満足感,あるいは刺激のように,わたしたちの精神を豊かにしてくれる目には見えない恵み(価値)のことです。京都市では,五穀豊穣を祝う伝統行事や地域の祭りで使われる祭祀品などにも地域の資源が多く用いられてきました。また,ハイキングや森林浴などのレクリエーションも,私たちに安らぎや癒しを与えてくれる生物多様性の文化的な恵みの一つといえます。
「基盤サービス」とは,3つのサービスを維持するために必要な恵みのことです,例えば,枯れ木や落ち葉を微生物が分解することにより土壌をつくりだす,植物が光合成を行うことにより酸素や有機物を生産するなど,全ての生きものを支える基盤としての環境をつくりあげていることを基盤サービスといいます。
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(1)奥山・里山(桂川の右岸一帯,左京区北部山間地域の森林,比叡山,東山)
奥山・里山は,三山やその北部に広がる森林であり,市域の約74%(約4 分の3)を占めています。
森林は多くの生きもの(動物・植物)のすみかとして重要であり,大都市でありながら,ツキノワグマ,ニホンジカ,イノシシ,ニホンザルなどが生息しています。- 供給サービス
- 北山杉に代表される木材やマツタケなどの供給
- 調整サービス
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- 雨水を一時的に蓄え,洪水を予防
- 土砂崩れなどの防止
- 文化サービス
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- 伝統的な祭りの祭祀品
- 着物や襖絵のモチーフ
- 庭園の借景
- ハイキングや森林浴などのレクリエーション
- 基盤サービス
- 豊かな土壌や酸素の供給など
- 課題
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- 森と人との関係の希薄化や森林病害虫被害の蔓延などに伴う森林の荒廃
- 過疎など人の影響の低下に伴う大型草食獣の増加(大型草食獣の増加に伴う植生への被害)
- ニホンジカ,イノシシなどの個体数の急増による農業被害
- アライグマの増加による農業被害・文化財被害
- イタチハギなどによる在来植物の生育阻害
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(2) 農耕地(嵯峨野,大原,岩倉,山科,巨椋池干拓地)
平安京の時代から長く栄えてきた京都は,海から遠く離れた立地のため海産物の運搬が難しく,大都市の食生活を支えていくためには野菜づくりが重要でした。特に京都には,全国各地や中国大陸から,朝廷への献上品として,優れた生産技術や野菜の品種が集まり,また,多くの社寺において精進料理が発達したことも影響し,野菜が伝統的に栽培されてきました。
農耕地(水田・畑)は,耕作や野菜づくりが行なわれてきただけでなく,多くの生きものにすみかを提供してきました。水田にはメダカやカエルなどが,畑にはさまざまなチョウなどが生息します。また,それらを餌とする生態系の頂点に立つオオタカなどの猛禽類も飛来します。- 課題
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- 農地の住宅地などへの転用(農地の分断化,小面積化)
- 畦,水路などのコンクリート化
- 管理不足に伴う,ため池の荒廃
- ウシガエルによる在来両生類の捕食
- スクミリンゴガイ,セイタカアワダチソウの急増
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(3)市街地(梅小路公園,宝が池公園,吉田山,京都御苑)
一見,生きものの生息・生育環境には適していないと思われがちな都市緑地にも,生きものにとって重要なすみかとなっている場所があります。古くから残る社寺林や庭園など,人が管理することで昔から変わらない姿を留めている場所には,都市公園等ではほとんど見ることができなくなったコケ・シダ類が生育しています。市街地の中に散りばめられたように存在している社寺林や庭園は,こうした生きもののすみかとして欠かせない場所となっており,本市ならではの自然環境を形づくる重要な要素となっています。
また,広い緑地を有する京都御苑や梅小路公園のような大きな公園も都市において生きものの格好のすみかとなっており,市内に点在する緑地(小さな公園や街路樹,個人の庭など)も生きものの生活域として重要な場所として機能しています。- 調整サービス
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- 雨水を一時的に蓄え,洪水を予防
- 緑陰によるヒートアイランド現象の緩和
- 文化サービス
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- 伝統的な祭り,文化を支える
- 公園や歩道などに緑が存在することで人々が受ける癒し
- 散策場所や子供の遊び場の提供
- 基盤サービス
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- 日当たりや湿度が異なる多様な環境の提供
- 町家の手水鉢や水盆など,水辺空間の提供
- 課題
- 市街地における貴重な緑地,水域を有する坪庭や路地裏の消失
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(4)河川・池沼(鴨川,桂川,宇治川,平安神宮神苑の池,琵琶湖疏水,西芳寺川)
市内には三川(鴨川,桂川,宇治川)のほか,発電や水道水として利用される琵琶湖疏水など,身近に流れる水が豊富にあります。これらの河川・池沼は,魚や水生昆虫など水の中で生息する生きものや,それを食べる鳥たちなどにすみかを提供しています。京都盆地は,約130 万年前の古大阪湾にたまった海成粘土層を基底にして,第四紀の氷河性海面変動を通じて,多くの砂礫層が堆積しました。その後,大きな湖ができたのちに,長い年月をかけて盆地が形づくられてきたものです。
昔は湖であった名残は深泥池,神泉苑といった湿地や池に見ることができます。巨椋池もその1つでしたが,いまでは干拓され農地として利用されています。ここでは,水辺をすみかとする生きものを多く見ることができますが,特に深泥池は天然記念物に指定されるなど,本市における重要な自然環境の1 つといえます。- 課題
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- 河川改修,暗渠化による生息環境の破壊
- 魚道の無い堰堤の設置による生息環境の分断化
- 河川敷のレクリエーション利用のための改変
- 過剰な地下水の汲み上げによる地下水位の低下・湧水の減少
- オオサンショウウオ等の遺伝子かく乱(チュウゴクオオサンショウウオと在来のオオサンショウウオとの交雑)